GOG.com最大の特徴「DRMフリー」とは?

※この記事は「DRM」と「DRMフリー」の対立を煽る意図は全くありません。

DRMとは?

GOG.comとはPC向けビデオゲーム、もしくはそれに関連する映像作品、サウンドトラックのダウンロード販売プラットフォームです。同様のサービスを行っているものとしてはSteamが有名ですが、様々な部分で違いがあります。その違いを語るうえで避けては通れないのが「DRMフリー」。これがGOG.com最大の特徴です。

「DRM」とは「Digital Rights Management」=「デジタル著作権管理」の略称。デジタルコンテンツの著作権を保護する目的で使用される技術のことを指しており、ビデオゲーム分野を語るこの場ではわかりやすく「違法コピー対策」と置き換えてしまってかまわないでしょう。GOG.comは「DRM」が「フリー」な作品を販売しています。これが一体どういうことなのか、「DRM」が施されている場合と比較してみます。

DRM施行済み

PCゲーム業界ではSteam、Origin、Uplayなどで取り扱っている作品などが該当します。以下の事柄がDRM施行による影響の例です。

◆購入した作品は購入した時に使用したアカウントでのみプレイできる

◆用意されたクライアントを経由しなければならない

◆ゲームは常時オンラインでなければプレイできない

◆ゲーム中にプロダクトキーの認証を求めてくる

◆万が一提供サービスが終了した場合、二度とプレイできなくなる可能性がある

 

何故このような事をするのかというと、作品の不正コピー、もしくはコピー品のプレイを防ぐために、「本当にこれを正規の方法で買った本人なのか」という確認を行うためであったり、作品自体がクラッキングされるのを防ぐためだったりします。

これらのことによりせっかく購入したものを自由に扱えない、悪いことに使うわけでもないのに疑われている、というユーザー側の不利益が生じますが違法コピーを防ぐという観点では当然のように感じられます。現在のゲーム業界ではこちらのほうが一般的。完全に企業側に寄り添った施策と言えます。

DRMフリー

DRMが施されていない状態ですので、本来のあるべき姿であるとも言えます。

◆購入した作品はアカウントの制限なくプレイできる

◆クライアントの立ち上げは必要ない

◆オンラインである必要なはい

◆個人使用目的なら作品(データファイル)の取り扱いは自由(作品の利用規約に準じていれば)

早い話が「完全に自分の所有物である」ということでしょう。自分で購入した物を自由に扱えるのは当たり前のことですよね。オンライン環境も必要なく、遊ぶには好きなPCで起動ファイルをクリックするだけです。保管方法だって自由ですから、町のゲーム屋さんで買ったパッケージ版のようにいつでも買い手の手元にあり続けるのです。

こちらの施策はユーザーに寄り添った形ですね。PCゲーム販売でDRMフリー作品を取り扱っているのはGOG.com、itch.io、FireFlower Games、PLAYISM などがあります。音楽業界ではこちらの採用が多いです。電子書籍でも結構多いかも。

DRMフリーがもたらすものとは

違法コピーを防ぐプロテクトが掛けられていないDRMフリーなんて、企業側はそれで大丈夫なの?不正利用を許しているの?と思われるかもしれません。この良し悪しについては御自分で判断していただくしかありませんが、ゲーマー目線で言えばDRMが施されていることに何らメリットが無いことは明らかです。

違法コピーしたゲーム、つまり「海賊版」への対抗策DRM。それを施せば海賊版の流通を防げるのかというとそんなことはなく、残念ながら海賊版の横行は続いているのが現状。有力なDRM技術として採用されるケースが多いDenuvoを始めとする様々なコピープロテクト技術をもってしても遅かれ早かれクラッキングされ、そしてさらに強化された技術で対抗するもいずれ破られてしまう。それを延々と繰り返しているのです。

GOG.com運営元のCD Projekt社は、DRMはもはや違法コピー対策として効果的ではないと主張しています。この現状を客観的に見ると、DRM施策によって守られるであろう企業側の一時的な利益の確保のために、多くのゲーマーに不利益、不自由を与えてしまっているという事実が見えてきます。

しかしながら海賊版の存在も問題であることは間違いなく、企業が手にするべき資金が得られないということになります。海賊版を入手しようとする心理は私にはわかりませんが、理由ならいくつか想像できます。

1つは何としてでもプレイしたいからというもの。「国による規制等で正規手段では入手できない、だけどプレイしたい」などが原因と考えられます。

もう1つは、無料で入手したいからというもの。その理由の背景には国の経済状況によるものや、お小遣いが少ない年少者が安易に手を出してしまっている可能性もありそうです。中には最初から支払う気が無い根っからの悪人もいることでしょう。

最後に、DRM版しかない作品だから、という理由。「本当はDRMフリー版が欲しいんだけどDRM版は絶対に買いたくない」ということです。DRMという支配からの脱却、自由を望む人達が違法コピーのダウンロードに走っている可能性も捨てきれません。

たしかに不正コピーを防止できるに越したことはないですが、前述したとおり対策とクラッキングはいたちごっこで、海賊版のダウンロードも前述のような様々な背景から生じる理由により無くすことは難しいでしょう。であるならば、やはり本来のあるべき形でユーザーの元に作品を届けるのが誠実な姿というものではないでしょうか。

DRMとは、警官が「誰が犯罪を犯すか分からないから市民は全員家から出るな。これで治安は守られる。」と言っているようなものです。多かれ少なかれ犯罪が減ることはあっても完全になくなることはありません。相手は人間ですから。それでも未然に防いだり、有事に対応したり、市民の自由な生活を守るために警官はいるのです。ところがDRMという警官は市民を縛り付けて治安を守ったつもりでいる。不自由の強制と引き換えに得た安全…一体誰の為に?これを良しとするか否とするかは人それぞれでしょう。

DRMフリーの存在は不正利用を許しているわけではありません。利用者が自分で買った物を自由に使えるのは当たり前の権利であり、誰も不自由を強いるべきではない、という考えが根底にあるのがDRMフリーなんです。これに賛同した企業がDRMフリー版を提供しているわけです。

小難しい話になってしまいましたが、どちらか正しいと思う方を選べというものではありません。ゲーマーによって環境は様々でしょうからDRMフリーのほうが便利という方もいれば、DRMでもとくに問題ないという意見もあるでしょう。

近年ビデオゲームユーザーは世界的に増加傾向であり、PCゲーム業界においても若い世代のゲーマーが多く参入してきていると思われます。彼らの目には、初めてPCに触れたときから現在のDRMだらけの世界が映っており、その光景はもはや当たり前のもので、DRM云々の概念すら持ち合わせていない若人が大勢いるのが現状のように思えます。「そういうものだ」という刷り込みによって疑問すら抱かない人がほとんどでしょう。

GOG.comはそんな現状を疑問視し、DRMに関する議論を喚起し、人々にDRMフリーへの理解を深めてもらうことを目的とする「FCK DRM」という取り組みを行っています。賛同するしないは個人の自由ですが、今一度”誰のために提供し、されるのか”ということを考えてみてください。

ビデオゲームは文化です。ビデオゲームのみならず音楽、スポーツ、芸術、テクノロジーなどの文化は人々の”この楽しさや素晴らしさを分かち合いたい”という感情が形になったのものであり、ビジネスはあとから追随してきたものにすぎないということを忘れないでください。今後PCゲーム業界がDRMとどう向き合っていくのかは分かりませんが、私はDRMフリー、そしてそれを柱として掲げるGOG.comを支持していきたいと思っています。