外的報酬が絡むとやる気が低下するらしい
今月号の日経サイエンスを読んでたらゲーマー視点から見ても興味深い記事がありました。
人間の内から湧く好奇心の研究についていくつか特集が組まれていたのですが、その中にゲーム体験を通じてやる気と報酬の関係性を調べた脳科学的実験が書かれていました。
ゲームと言ってもビデオゲームのような複雑なものではなく、ストップウォッチで五秒きっかりで止めればクリアという誰でも取り組めるシンプルなもの。
実験の詳細は省きますが被験者達にクリア報酬(金銭)の有無を知らせる/知らせないといった条件を設けて比較するといった内容です。その後、休憩室での様子や「報酬はやっぱり発生しないよん」という悲報を知らせた場合の反応を探ります。
結果的に以下のことがわかりました。
- 金銭とゲーム成績が結びついたグループは線条体(意欲等に関わる脳領域)が活発になるも、無報酬となると活動が止んだ。アンダーマイニング効果(内発的動機付け・自主性・有能感の低下)が起きていた。
- 最初から無報酬のグループは終始変わらぬレベルを維持。休憩時にも一方のグループよりも多く自発的に同じゲームをプレイした。
これによって脳は御褒美だけで動いてるわけではないということがわかりました。完全無報酬グループは報酬が無くとも、報酬があったグループよりも内発的に楽しさを感じとっているわけです。
続いて難易度に関する実験へ。
同じ条件下でゲームの難易度を3段階に設定。次にストップウォッチを押すタイミングがコンピューターでランダムになるもクリアできれば報酬が貰えるというギャンブルモードへ移行。
- 完全無報酬グループは難易度が上がるほど「楽しかった」と回答
- 金銭とゲーム成績が結びついたグループは難易度が変わっても楽しさは変わらず。難しいと報酬から遠のくため内発的動機付けが外発的動機付けによって相殺されたという解釈
- 【ギャンブルモード】難易度が低いほど楽しいという結果。「金銭がどれだけの確率で貰えるか」という外的動機付けが有利に働いた
経済論で言う期待効用理論で外的報酬こそが満足度、モチベに繋がると説明されてるものの、人間には「難しい課題が一番面白い」と感じる内発的動機付け、つまり「チャレンジ精神」が確かに備わってるという反証めいた結果が出ました。
記事ではさらに心理学から近年脳分野やAI分野で聞く機会が多くなってきた自由エネルギー原理といった話が続きますがとりあえずここで締めます。
今回のキーとなったのは内的な動機と外的な動機。ゲーマー目線で見てみると内的、つまりチャレンジ精神と結びついた難しくて楽しいのがソウルライクあたりで、外的なのはガチャ要素が強いゲームあたりでしょうか。とは言えゲームはいくつもの要素が絡んでるので一概に区別できるものではないと思いますが。いずれにせよ高モチベーションに繋がる楽しさは外的な報酬を伴わない内的動機によって得られるということです。
ここで気になったのは、わが国の現政権が掲げる「楽しい日本」。賃上げやら財務省やら、お金の問題が喫緊の課題ですが「楽しい日本」の置き所をどこに持って行くのかという話です。お金が絡めばアンダーマイニング効果が表れ、お金が絡まなければ内発的な楽しさを感じられる。となってくると、単純に数字の上げ下げではない、大胆な議論も必要なのではないでしょうか。日本を楽しい国にしたいのであれば。